防災について調べると、「避難所に何を持っていくか」「避難所でどう過ごすか」といった情報を多く目にします。
どれも大切ですが、介護が必要な両親と暮らすわが家では、そのまま当てはめるのが難しいと感じることも少なくありませんでした。
長い距離では車椅子を使う母と、歩行器を使う父。薬やお薬手帳、おむつなど、毎日の服薬や介護に必要なものが、そのまま防災の備えにもつながります。
この記事では、両親の移動や生活の状況を踏まえ、避難のタイミングや在宅避難の備えを、わが家でどう考えているかを整理します。
要配慮者がいる家庭の防災は、少しだけ視点を変えて考えたい
高齢の親がいる家庭では、移動のしやすさや服薬、食事、介護用品など、普段の暮らしに合わせて備えを考える必要があります。わが家では、「両親にとって無理がないか」「災害時にも続けられるか」を一つずつ確かめることから始めました。

「避難所に行けば安心」とは限らないことを知る
防災について調べると、本やウェブサイトでよく見かけるリストは、避難所での生活を前提にしていることが多いです。非常食、寝袋、着替え、現金。どれも大切ですが、「避難所に着いてからの話」が中心です。
わが家の問題はもっと手前にあります。そもそも避難所の環境が、両親に合うかどうかがわかりません。
避難所では、大勢の人が1つのスペースで過ごします。車椅子での移動、プライバシーの確保、おむつ交換の場所、慣れない食事。避難所によっては和式トイレしかなく、バリアフリー対応が十分でないケースもあります。
「とりあえず避難所に行けばなんとかなる」という前提が、わが家には成り立たないと気づきました。
ただし、避難所の環境が合わないから自宅に残る、という意味ではありません。自宅や周囲に危険があるときは、安全な場所へ移動することが最優先です。
わが家では、ケアマネージャーの声かけで父と母それぞれの個別避難計画を作成・登録し、福祉避難所も避難先の候補にしています。ただし、災害時に必ず開設され、利用できるとは限らないため、安全な親類宅などを含めて複数の避難先を考えています。
高齢の親が困りそうなことを、先に考えておく
避難所での生活を具体的に想像してみると、わが家で特に困りそうなことが見えてきます。
まずトイレです。母は状況によって車椅子から便座への移乗介助が必要なため、バリアフリー対応のトイレがあるかどうかが大きなポイントになります。次に食事です。
父は硬いものを避け、塩分を控えた食事をとっています。避難所で配給される食事が、毎回そのニーズに合うとは限りません。
そして、環境の変化です。
母は場所が変わると不安になりやすく、父には軽度のアルツハイマー型認知症がありますが、日常会話は問題なくできています。慣れない場所では、落ち着いて眠れなかったり、夜間のトイレ移動で見守りが必要になったりすることも考えています。
こうした困りごとをあらかじめリストアップしておくことが、わが家の防災を考える出発点になりました。
わが家にできること、難しいことを整理してみた
「難しいこと」を先に整理すると、「では何ができるか」が見えやすくなります。
わが家で難しいこと:
- 自宅での垂直避難……父も母も1階から2階への移動が難しい
- 避難所で長期間過ごすこと……環境の変化が両親の大きな負担になりやすい
- 短時間で多くの荷物を運び出すこと……2人で両親を介助しながら運ぶのは難しい
わが家でできること:
- 台風など事前に予測できる災害では、道路の混雑や風雨が強まる前に、車で早めに移動する
- 建物の状態に加え、津波・浸水・火災など周囲の危険を確認し、安全に生活を続けられる場合は在宅避難を選ぶ
- トイレ、介護用品、食料、電源などを日頃から備え、停電や断水時にも両親の生活を支えやすくしておく
この「できること・難しいこと」の整理が、避難の判断基準づくりにつながっていきます。
家族がどこまで動けるかで、避難の仕方が変わってくる
避難先や動き始めるタイミングを決めるには、家族の移動に必要な時間と、介助できる人数を具体的に考える必要があります。わが家では、父と母それぞれの移動の難しさを確かめることから、避難のルールを整理しました。

垂直避難が難しいわが家だからこそ、避難の判断は早めに
垂直避難とは、自宅の上階など、より高い場所へ移動して安全を確保する避難方法です。
ただし、建物そのものが安全で、浸水しない高さまで移動できることなどが条件になります。
わが家では、父も母も1階から2階への移動が難しく、自宅での垂直避難を前提にはできません。
父は歩行器を使っており、階段は2〜3段なら介助を受けてなんとか昇れますが、2階までの移動はできません。母は長い距離では車椅子を使い、階段の昇降はできません。
そのため、自宅や周囲に浸水などの危険があり、安全な場所への移動が必要な場合は、危険が迫る前に早めに動くことを基本にしています。
両親の体調や介護の状況は考慮しますが、それだけを理由に自宅に残るとは決めません。まず自宅と周囲の安全を確認し、自宅を離れる必要があれば、安全に移動できる段階で避難します。
警戒レベル3を目安に、必要なら早めに動き出す
わが家では、台風・大雨・高潮などに備え、必要な準備を早めに整えます。
自宅に浸水などの危険があり、安全な場所への移動が必要な場合は、警戒レベル3(高齢者等避難)を避難開始の基本的な目安にしています。これは、必ず避難所へ移動するという意味ではありません。
発令を待っていると安全な移動が難しくなりそうな場合は、気象情報や周囲の状況を確認し、さらに早く動くことも考えます。
警戒レベル3(高齢者等避難)は、危険な場所にいる高齢者や障害のある方など、避難に時間がかかる方と、その避難を支援する方が避難する段階です。
出典:内閣府「避難情報に関するガイドライン(令和8年3月改定)」
車椅子と歩行器を使う両親との移動には時間がかかります。そのため、自宅が危険で移動が必要な場合は、警戒レベル4(避難指示)を待たずに動けるようにしています。
台風など事前に予測できる災害では、車の燃料や持ち出す荷物を前もって確認し、薬とお薬手帳も準備します。警戒レベル3が発令されてから準備を始めるのではなく、発令されたときには避難を始められる状態にしておくことが大切です。
突然の災害で夫がいないときの行動も、あらかじめ決めておく
浩平がホームセンターへ出かけている短い時間に、突然大きな地震が起きたら。そのときの行動も、あらかじめ考えておく必要があります。
私1人では、車椅子の母と歩行器を使う父を、同時に安全な場所へ移動させることはできません。
両親を介助しながら、持ち出す荷物まで運ぶのはさらに難しくなります。地震の揺れが続いている間は、無理に移動しようとせず、まずその場で身を守ります。
揺れが収まり、周囲を確認できる状態になったら、自宅と周囲の危険をできる範囲で確認し、その場にとどまれるか、安全な場所へ移動する必要があるかを判断します。
津波や火災などの危険がある場合は、浩平の帰宅を待つことを前提にはできません。わが家では、父と母それぞれの個別避難計画を作成し、移動方法や必要な支援を確認しています。
ケアマネージャーとも避難時の連絡先を共有しています。ただし、災害時に支援がすぐ届くとは限らないため、不在時に誰へ連絡し、何を優先するかも家族で決めておくことが大切です。
在宅避難で大切なのは、いつもの暮らしをどう続けるか
自宅と周囲の安全を確認したうえで在宅避難を選ぶ場合、次に考えたいのは、自宅でどこまで生活を続けられるかということです。
電気・水道・ガスが止まっても両親の暮らしを支えられるよう、トイレ、介護用品、食料、電源などを具体的に備えておく必要があります。

トイレ問題は最優先。種類と使い分けを整理しておく
在宅避難では、トイレの備えを優先して考えたいところです。
断水だけでなく、地震で排水管や下水道が損傷している場合や、機種によっては停電した場合にも、トイレを流せなくなることがあります。
災害後は、自治体などの案内や建物の状況を確認し、安全に使用できると分かるまでは水を流さず、携帯トイレなどを使います。
携帯トイレは、便器に袋をかぶせ、凝固剤などで排泄物を処理するタイプです。簡易トイレは、便座と箱などを組み立てて使うタイプで、自宅の便器が使えない場所でも使用できます。
商品によって呼び方が異なることもあるため、形と使い方を確認して選ぶことが大切です。
必要数は、家族それぞれが普段トイレを使う回数をもとに、夜間の使用分も含めて考えます。
処理袋、凝固剤、防臭袋も一緒に用意しておくと、臭いや保管の問題に対処しやすくなります。使用後の処分方法は、災害時の自治体の案内に従います。
体拭きシートやおむつは、日頃の使用量を基準に備える
断水が続くと、お風呂に入れない日が続くことがあります。
そのときに役立つのが体拭きシートです。全身を拭きやすい大判タイプを選び、着替えと組み合わせることで、できる範囲で清潔を保ちやすくなります。
おむつは、父も母も万が一に備えて普段から着用しています。備蓄量は、昼夜を通して実際に1日に交換する枚数を数え、「1日に使う枚数×7日分」をわが家の基準にしています。
体調や状況によって交換回数が増えることも考え、少し予備を加えています。
介護用品は普段から少し多めにストックし、使った分を補充するローリングストックにすると、無理なく続けやすくなります。
水や食料は、少しずつ複数の場所に分けてストックする
飲料水は、1人1日3リットルが備蓄の目安とされています。わが家の4人分を7日分用意すると、3リットル×4人×7日で84リットルになります。
これだけの量を1か所に収めるのは難しいため、階段下収納など、家の中の複数の場所に分けて備えています。
出典:農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド(命をつなぎ止める水)」
食料は、両親が普段から食べ慣れ、実際に無理なく食べられるものを選びます。わが家では、やわらかい食品や水でもどせる食品、塩分を控えたものを中心に備えています。
停電になったとき何を動かしたいか、先に考えておく
停電時の暮らしを具体的に想像すると、わが家では、母が使う電動ベッドや、スマホ・ラジオなどの電源をどう確保するかが気になりました。そこで浩平と一緒に、停電時に何を優先して使いたいかを整理しました。

止まると困るものをリストアップして、容量の目安を出す
ポータブル電源の容量(Wh)を考えるときは、最初に「何を、どれくらい使いたいか」を決めることが大切です。使用する機器の消費電力や必要な出力も確認します。
わが家では、母が使用している電動ベッドをポータブル電源につなぎ、実際に動かせることを確認しています。
母が使用している電動ベッドは、手動で背を上げることもできます。ただ、母がベッドから起き上がるときや横になるときは、浩平と私の2人で介助しながら、リモコンでベッドを操作する必要があるのが現状です。
わが家では複数の電源を備えていますが、停電時には電動ベッド以外にも電気を使う可能性があります。そのため、「動かせるか」だけでなく、必要な操作にどれくらいの電力を使うのか、ほかの用途とどう配分するのかまで考えておく必要があります。
なお、これは、わが家で使用している電動ベッドとポータブル電源の組み合わせで確認した結果です。機種によって消費電力や必要な出力、停電時の操作方法が異なるため、それぞれの取扱説明書やメーカーの案内を確認し、平常時に動作を試しておくことが大切です。
使う優先順位を決めておけば、いざというとき迷わない
ポータブル電源に蓄えられる電力には限りがあります。そのため、停電時に何を優先して動かすかを、あらかじめ考えておくことが大切です。
わが家では、母の介助に必要な電動ベッドを優先度の高い機器として考えています。
一方で、停電が長引けば、スマホの充電、ラジオによる情報収集、照明などにも電気が必要になります。電動ベッドを手動で操作できる場面も含め、状況に応じて電力の使い道を判断します。
冷蔵庫をどこまで優先するかは、保存している薬や食品によって変わります。冷蔵保存が必要な薬を使用している場合は、停電時の保管方法を主治医や薬剤師に事前に確認しておくことが大切です。
モバイルバッテリーとポータブル電源を、場面に合わせて使い分ける
わが家では、モバイルバッテリーを主に持ち出し用として、防災リュックなどに入れています。
避難先や移動中にスマホを充電するための電源です。在宅避難では、状況に応じてポータブル電源からスマホを充電することも考えています。
1000Whクラスのポータブル電源は3台備えています。
そのうち1台は、普段から電源の取れない畑へ持って行き、充電式草刈機のバッテリーを充電したり、電気ポットでお湯を沸かしてお茶やコーヒーを淹れたりするために使っています。
非常時だけしまっておくのではなく、日頃から使うことで、操作方法や状態を確認できます。
また、停電が長引いた場合にも充電できるよう、100~200Wクラスの持ち運べる折りたたみ式ソーラーパネルも一緒に備えています。このほか、リビングにはソーラーパネルから充電する据え置き型の蓄電池も設置しています。
ただし、電気ポットなど消費電力の大きい機器を使う場合は、ポータブル電源の出力が対応しているかを事前に確認する必要があります。停電時は、残量と必要性を見ながら使う機器を判断します。
まとめ|高齢の親を守る備えは、いつもの暮らしを知ることから
高齢の親がいる家庭の防災は、一般的な防災情報に、それぞれの家族の事情を重ねて考える必要があります。
ただし、自宅や周囲に危険があるときは、安全な場所へ移動することが最優先です。
そのうえで、家族がどこまで動けるか、日常生活で何が欠かせないか、在宅避難を続けられる条件と限界を具体的に把握します。それによって、自宅にとどまれるか、どこへ・いつ移動するか、何を優先して備えるかが見えてきます。
私が防災備蓄収納2級プランナーの学習を通して学んだこと、防災士の浩平と話し合いながら気づいたこと、そして実際に両親の介護をしながら感じたことを積み重ねて、少しずつわが家の防災を形にしてきました。
完璧な備えを最初から整えることはできません。まずは、日常の介助で欠かせないことや、災害時に難しくなりそうなことを家族で書き出すところから始めてみてください。

